典型的な過払い金の判例

金融
容赦
てる

主文

1 I1は,原告C1に対し,648万0143円及びこれに対する平成12年7月26日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 I1は,原告D1に対し,464万6471円及びこれに対する平成12年5月13日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 原告D1のその余の請求を棄却する。
4 反訴請求をいずれも棄却する。
5 訴訟費用は,本訴,反訴を通じ,I1の負担とする。
6 この判決は,第1項及び第2項に限り,仮に執行することができる。

事実及び理由

第1 請求

1 本訴
(1) 主文第1項と同旨
(2) I1は,原告D1に対し,502万7362円及びこれに対する平成12年5月13日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 反訴
(1) 原告C1は,I1に対し,452万5231円及びこれに対する平成14年10月1日から支払済みまで年21.9パーセントの割合による金員を支払え。
(2) 原告D1及び反訴被告D3は,I1に対し,連帯して,331万0602円及びこれに対する平成14年10月1日から支払済みまで年30パーセントの割合による金員を支払え。
(3) 反訴被告E2は,I1に対し,600万円及びこれに対する平成14年10月1日から支払済みまで年30パーセントの割合による金員を支払え。
(4) 反訴被告F2及び同F3は,I1に対し,連帯して,400万円及びこれに対する平成14年10月1日から支払済みまで年30パーセントの割合による金員を支払え。
(5) 反訴被告F2は,I1に対し,92万4282円及びこれに対する平成14年10月1日から支払済みまで年30パーセントの割合による金員を支払え。

第2 事案の概要

本件は,I1から金員を借り入れた借主らが,利息制限法所定の利率を超える利息を支払い,過払いが生じたとして,I1に過払い金の返還を求め(本訴),I1が,反訴として,消費貸借契約,保証契約に基づき,主債務者又は連帯保証人に対し,貸金又は保証債務金の支払いを求めた事案である。
1 争いのない事実等
(1) 本件各貸付けの経過
ア 原告C1への貸付け
 (ア)  原告C1は,I1との間で,平成2年11月27日,手形貸付取引約定を締結し,その契約では,原告C1が元利金の支払いを1回でも怠ったときは期限の利益を失い,直ちに債務の全額を支払うこと,遅延損害金は年37パーセントとすることが定められた。
(イ) I1は,原告C1に対し,上記契約に基づき,別紙計算書1−1及び同計算書2−1記載のとおり金員を貸し付けた。
イ 原告D1への貸付け
 (ア) 原告D1は,I1との間で,平成4年2月26日,手形貸付取引約定を締結し,その契約では,原告D1が元利金の支払いを1回でも怠ったときは期限の利益を失い,直ちに債務の全額を支払うこと,遅延損害金は年37パーセントとすることが定められた。
(イ) 反訴被告D3は,I1との間で,平成9年2月27日,原告D1が上記手形貸付取引約定に基づきI1に対して負う債務につき,極度額600万円の範囲内で(ただし,平成9年2月2
7日から平成14年2月26日までの間の取引によって発生したもの及び平成9年2月27日現在負担するものに限る。),連帯保証契約を締結した。
(ウ) I1は,原告D1に対し,上記(ア)の契約に基づき,別紙計算書1−2及び同計算書2−2記載のとおり金員を貸し付けた。
ウ 有限会社E1(以下「E1」という。)への貸付け
 (ア) E1は,I1との間で,平成元年8月8日,手形貸付取引約定を締結し,その契約では,E1が元利金の支払いを1回でも怠ったときは期限の利益を失い,直ちに債務の全額を支払うこと,遅延損害金は年37パーセントとすることが定められた。
(イ) 反訴被告E2は,I1との間で,平成9年4月21日,E1が上記手形貸付取引約定に基づきI1に対して負う債務につき,極度額600万円の範囲内で(ただし,平成9年4月21日
から平成14年4月20日までの間の取引によって発生したもの及び平成9年4月21日現在負担するものに限る。),連帯保証契約を締結した。
(ウ) I1は,E1に対し,上記(ア)の契約に基づき,別紙計算書1−3及び同計算書2−3記載のとおり金員を貸し付けた。
エ 有限会社F1(以下「F1」という。)への貸付け
 (ア) F1は,I1との間で,平成4年6月12日,手形貸付取引約定を締結し,その契約では,F1が元利金の支払いを1回でも怠ったときは期限の利益を失い,直ちに債務の全額を支払うこと,遅延損害金は年37パーセントとすることが定められた。
(イ) 反訴被告F2は,I1との間で,平成11年12月28日,F1が上記手形貸付取引約定に基づきI1に対して負う債務につき,極度額1000万円の範囲内で(ただし,平成11年1
2月28日から平成16年12月27日までの間の取引によって発生したもの及び
平成11年12月28日現在負担するものに限る。),連帯保証契約を締結した。
(ウ) 反訴被告F3は,I1との間で,平成8年1月12日,F1が上記手形貸付取引約定に基づきI1に対して負う債務につき,極度額400万円の範囲内で(ただし,平成8年1月12日
から平成13年1月11日までの間の取引によって発生したもの及び平成8年1月12日現在負担するものに限る。),連帯保証契約を締結した。
(エ)  I1は,F1に対し,上記(ア)の契約に基づき,別紙計算書1−4及び同計算書2−4記載のとおり金員を貸し付けた。
(2) 本件各貸付けの具体的状況
 ア 平成10年途中までは,各貸付日に,原告C1,同D1,E1及びF1(以下「本件主債務者ら」という。)が,それぞれ貸付金額(額面金額)を手形金額とし,返済期日を支払期日とし,I1を受取人とする約束手形を振り出し,I1からは,貸付金額(額面金額)から返済期日までの利息,調査料,取立料(平成5年から)を控除し,さらにL株式会社(以下「L」という。)への保証料,事務手数料を控除した金員が本件主債務者らへの口座に振り込まれ,又は現金で交付された。
イ その後,利息,調査料,取立料,保証料,事務手数料(以下,これらを「利息等」という。)の一部又は全部が後日払いとなり,各貸付日に,本件主債務者らが,貸付金額(額面金額)を手形金額とし,返済期日を支払期日とし,I1を受取人とする約束手形を振り出すとともに,後日払いの利息等の支払いのための約束手形又は先日付け小切手を振り出し(額面はその時点で支払うべき利息等をすべて合算した金額),I1からは,貸付金額(額面金額)から最初に徴収する分の利息等を控除した金員(全部後払いの場合は貸付金額(額面金額)全額)が本件主債務者らの口座に振り込まれ,又は現金で交付された。
ウ 貸金元本の返済や後日払いの利息等の弁済は,手形や小切手を決済する方法により行われた。
エ 各貸付け毎の利息等の金額及び本件主債務者らの支払状況は,別紙計算書1−1ないし4,同計算書2−1ないし4に記載のとおりであり,各貸付け毎の利息等の弁済は利息制限法の制限を超えて,過払いとなっている。
 各貸付けに際して,利息等を控除して本件主債務者らが実際に受領した金額は,別紙計算書2−1ないし4の「被告振込額」欄記載のとおりである。
(以上,(2)につき弁論の全趣旨)
2 主な争点
(1) Lへの保証料,事務手数料(以下「保証料等」という。)の支払いが,利息制限法3条のみなし利息に該当するか。
ア 原告C1,同D1,反訴被告D3,同E2,同F2,同F3(以下「原告ら」という。)の主張
  I1とLとは実質的に一体であり,保証料等の実態はまさに利息であるから,みなし利息に該当する。
イ I1の主張
保証料等はLが信用保証の対価として顧客から受領するもので,I1の受領する利息とは全く異なる。LはI1とは別法人であり,I1との間に「利益帰属主体の同一性」も存しないから,
保証料等が「債権者の受ける元本以外の金銭」に該当することはない。
  そもそも,Lの実態は,銀行等の金融機関の子会社たる信用保証会社と変わらない。
(2) I1から本件主債務者らへの継続的な融資は,それぞれ個別の貸付けか,一体の貸付けか。
ア 原告らの主張
(ア)  主位的主張
 I1から本件主債務者らへの貸付けは,当初から極度額と期間が定められて,長期にわたる継続的反復的な取引が予定されており,現に返済期日(旧手形の決済日)が近づくと本件主債務者らに新手形を振り出させた上で,I1が利息等を天引きした金額を本件主債務者らの口座に振り込み,本件主債務者らはこの振り込まれた金員と,利息等として別途自己資金を加えた金員で旧手形を決済する形で,貸付けが連続されていたのであり,まさに利息を支払って借換え,借増しを繰り返していたにすぎない。
したがって,I1の本件主債務者らへの貸付けは,すべて一体の取引である。
(イ) 予備的主張
 仮に,貸付けがすべて一体ではなかったとしても,旧手形の決済日と新手形の貸付日とが一致する貸付けは1つのグループと捉え,同一グループ内の貸付けは一体の取引とみるべきである。
イ I1の主張
I1と本件主債務者らとの取引においては,各貸付け毎に,融資の適否を個々に審査決定し,現実に顧客の口座に金員を振り込みあるいは現金を交付しているのであり,これが旧手形の決済資金に使われるとは必ずしも限らない。
また,旧手形の支払時期と連続しない貸付けや,旧手形の決済額と大幅に金額の異なる貸付けもあり,さらには新たに貸付けをしないで旧手形の決済だけを受けるときもあるから,単なる借換えや借増しとは異なる。
したがって,これらの貸付けはあくまで各々別個の貸付けであり,一体とみることはできない。
(3) (個別の取引とみる場合),1つの貸付けにつき利息制限法の制限を超えて支払った過払い金を,他の貸付けの弁済に充当すべきか。
ア 原告らの主張
 過払い金は,有効に存在する別口の債務に当然充当されるべきである。
I1の期限の利益の点については,過払いにより計算上元本として利用できなくなった期間についてまで利息を得る権利があるとはいえない上,期限前に弁済を受けてもI1はこれを他に貸し付けて利益を得ることが可能であるから,実質的にI1に損害はない。
イ I1の主張
過払い金を他の債務に当然充当すべき法的根拠がないし,仮に充当の余地があるとしても,債権者にも期限の利益があり,債務者はその損害(期限までの利息)を賠償しなければならないから,充当しないのと同じ結果となる。
(4) I1の利息等の取得を,信義則上制限すべきか。
ア 原告らの主張
信義則上,いわゆるサラ金等の他の貸金業者の場合と同様に,別紙計算書2−1ないし4のとおりの計算方法,すなわち「実際に利用可能な金額」(過払分だけ利用可能な金額が減少)と「実際に利用した期間」に基づいて算出した利息制限法の制限内の金額にI1の取得する利息等を限定するのが相当である。
イ I1の主張
I1の利息等の取得が信義則上制限されるべき事情はない。

第3 争点に対する判断

1 争点(1)(保証料等のみなし利息該当性)について
(1) 証拠(甲17の2,19ないし22,26,28の1ないし3,36の1ないし6,37の1ないし8,46,51の1及び2,乙9,12,13,19ないし21,22の3ないし5,23ないし26の各5ないし7,29の4及び6,30の1の4及び6,30の2の4及び6,36ないし39,69,73,74の1ないし5,75の1及び2,83,84,89の1ないし10,91の2,94,112,113,114の2ないし4,115)並びに弁論の全趣旨によると,Lの実態について次の各事実が認められる。
   ア Lは,平成3年5月27日に,I1の融資に対する保証業務等を目的として設立された株式会社で,I1が100パーセント出資した子会社であるが,法律的にI1とは別個の法人であり,会計処理も独自に行っている。
   イ Lには,I1が顧客から徴収した保証料等が入金される。
   ウ Lの業務は,I1の融資に対する信用保証のみで,他の金融業者の融資について信用保証を行うことはまったくなかった。
   エ Lの顧客との信用保証委託契約の締結や保証料等の徴収業務は,すべてI1に委託してI1が代行し,顧客から徴収した事務手数料の中からI1に事務代行手数料を支払う形態となっている。
   オ 顧客がI1から融資を受ける際には,事実上,Lの信用保証を付けることが条件となっており,ほとんどの融資にLの信用保証が付された。他方,他の信用保証会社の信用保証が付されることはなかった。
   カ I1とL間には,資本や業務内容はもとより,役員,社員,営業所等,人的,物的に多くの面で密接な関係があり,特に,設立後平成10年まではLが独自に採用した社員がおらず,I1の社員が出向するなどしてその業務を行っていた。
   キ Lの保証料の率はI1と協議して決められ,また,平成11年3月まではLに独自の審査部門がなかった。
   ク Lの信用保証が付く場合でも,顧客にはI1に対して別途保証人を求めている。
   ケ Lを設立した際,I1は貸付利率を下げたが,その減額分と同等かこれを若干上回る保証料等を徴収し,保証料等を合わせた実質利率はほとんど変わらなかった。
   コ 平成10年からI1が貸付けの形態を利息後取りに変更したことに伴い,保証料等の徴収も利息と一緒に後取りとし,貸付け時に,保証料等を含む利息等を合算した金額の約束手形や小切手を受け取って,その決済の方法で徴収することになった。
   サ 平成11年に成立した「出資の受入れ,預り金及び金利等の取締りに関する法律」の改正により,平成12年6月から同法所定の金利の上限が29.2パーセントに引き下げられたのと時期を同じくして,Lは事務手数料を徴収しないこととなり,Lの受領する保証料等とI1の受領する利息(調査料,取立料を含む。)を合算した金額が同法の上限29.2パーセントを
超えないようになっている。
   シ I1のパンフレットには,Lの保証料等を含む実質年率が表記されている。
(2) 上記認定のとおり,Lが,I1とは一応別個の法主体であって,会計処理も独自に行っていること,保証料等が形式的にはLに入金されることに照らすと,保証料等が利息制限法3条にいう「債権者(I1)の受ける元本以外の金銭」に当然に該当するとはいえない。
 しかしながら,上記認定によれば,Lの経営は完全にI1に依存し,独立性が希薄で,I1の一部門にすぎないとも評される実態である上,LがI1の100パーセント出資子会社で,取引先もI1のみであるから,損益は結局I1に還元されることになり,貸倒れの損失も最終的にはI1が被ることになって,実際上,危険分散という信用保証本来の意味に乏しいこと,債務者からすると,I1からの借入れのためにはLの信用保証を受けざるを得ないので,保証料等はまさに借入れの対価とみられる面があることが認められ,また,I1やL自身も,保証料等が実質的な利息であることを十分に意識していることが窺われる。
 以上によれば,保証料等は,形式的に別法人による受領の体裁を装っているものの,実質的にはI1に帰属するものと認められるから,これを利息制限法3条のみなし利息として扱うのが相当である。
 なお,I1は,銀行等の金融機関においても子会社を設立して信用保証業務をさせ,保証料を受領していることを指摘するが,銀行等の金融機関においては本来の利息と保証料を併せても利息制限法の制限を超える金銭を取得していないのであって(弁論の全趣旨),仮に同法の制限を超えるときには,その実態と潜脱の意図が問われるべきである。
2 争点(2)(貸付けの個数)について
前記争いのない事実等に,証拠(乙9,12,13,16の1ないし3,60,112,113)及び弁論の全趣旨を総合すると,I1の一般的な貸付け形態として,継続融資する場合にも,債務者に新手形を振り出させるとともに,現実に新貸付金を債務者の口座に振り込み又は現金を交付していること,反面,旧手形を債務者に返却することはなく,実際に取立てに回していること,実際上は債務者が新たに振り込まれた資金を旧手形の決済資金に用いることが多いものの,法律的にそのような拘束性はなく,現に新旧手形がいずれも不渡りになること(ダブル不渡り)が生じていること,旧貸付けの返済期日頃に同額の新貸付けを行うことが多いものの,必ずしもそうとは限らず,金額や利率が新旧貸付けで異なることや,旧貸付けの返済期日と関係なく新貸付けを行うこともあること,本件主債務者らへの貸付けにおいても同様の形態であった(ダブル不渡りは生じていない。)ことが認められ,これらの点からすると,I1の本件主債務者らに対する貸付けは,いずれも要物性が充たされた別個の貸付けとみるほかなく,単なる借換えとか借増しということはできない。
 なるほど,旧貸付けの返済は手形の決済によるので,債務者が不渡りをおそれて旧貸付けを返済する事実上の強制力は大きく,通常は確実に返済することになるから,事実上借換えにすぎない面は否めないけれども,前記事実に鑑みると,法律的にこれを借換えと断ずるには無理がある。
 原告らが主張するグループ内の貸付けについても,それぞれ別個の貸付けとみるほかないことは同様である。
3 争点(3)(過払い金の他の債務への充当の可否)について
 この点については,債務者の充当意思の問題と債権者の期限の利益の問題があり,仮に前者の点で民法489条による法定充当が可能であると解するとしても,債権者には期限の利益があり,弁済期未到来の債務に充当するには弁済期までの利息を弁済して充当するほかない。
本件において,過払いが生じた時点で弁済期が到来している債務はなく(別紙計算書1−1ないし4及び同計算書2−1ないし4参照),また原告らが弁済期までの利息を弁済する形での充当を主張する趣旨とは解されない
から,結局,過払い金の他の債務への充当は認められない。
原告らは,過払いにより計算上元本として利用できなくなった期間についてまで利息を得る権利がないとか,I1が他に貸し付けて利益を得ることが可能である旨主張するが,法が債権者に期限の利益を認め,債務者の自由意思で期限前の弁済(充当)をする以上,弁済期までの利息の弁済はやむをえない。
4 争点(4)(信義則による制限)について
(1) 原告らの主張
 以上の結果に基づき,個別の貸付けで充当も認められないとして,I1と本件主債務者らとの債権債務関係を整理すると,本件主債務者らはI1に対して個別の各貸金残金(及び利息,遅延損害金)を支払う義務があり,I1は本件主債務者らに対して貸付け毎に利息制限法の制限を超えて受領した利息等の不当利得金(及び利息)を支払う義務があることになる(以下「精算A」という。)。
 これに対し,原告らは,I1の貸付けが厳密には個別の貸付けで充当が認められないとしても,信義則上,他の貸金業者の場合と同様に,別紙計算書2−1ないし4のとおりの計算方法,すなわち「実際に利用可能な金額」と「実際に利用した期間」に基づいて利息制限法の制限内の利息を算出した(以下「精算B」という。)範囲内に,I1の取得する利息を限定すべきであると
主張する。
(2) 精算Aと精算Bの相異
精算Aの結果が精算Bの結果に比してI1の取得する実質利息が大幅に増え,それだけ債務者の弁済すべき金額が増えることは明らかであり,精算Aの計算によってI1が取得する利息は,個
別の貸付け毎にみれば利息制限法の制限内に収まるものの(過払い金の返還が前提),全体として「実際に利用可能な金額」を基にした実質金利の計算をすれば同法の制限をはるかに超えている。
(3) 他の貸金業者の場合の一般的精算方法
弁論の全趣旨によれば,I1と同様に,短期間の貸付け,弁済を繰り返している他の貸金業者の場合,法的形式が異なるとはいえ,裁判手続においては,これを実質的に借換え,借増しとみて,全体として1本の貸金とした計算をするのが一般的であり,「実際に利用可能な金額」と「実際に利用した期間」に基づいた実質金利が利息制限法の制限を超過する部分は元本に充当されていること,適用利率は,個別の貸付け金額を基準とせず,全体としての残元本額を基準としていることが認められる。
(4) 貸金業の規制等に関する法律(貸金業法)の趣旨
  貸金業法は,貸金業者が利息制限法の制限を超える利息を取得することを原則として禁止する一方,政策的な配慮から,合法的にこれを取得しうる例外として同法43条を定め,貸金業者と債務者との調整を図っている。
したがって,貸金業者が,利息制限法の制限を超える利息を民事的に適法に取得しようとする場合には,債務者保護の観点から定められた同法43条の厳格な要件を充たす必要がある。
また,同法によれば,「実際に利用可能な貸付けの金額」を基にした貸付け利率の表示を求めており(同法14条,同法施行規則11条3項,別表),これが利息制限法の制限内か否かの計算
の基本となるものと解される。
(5) I1の貸付けの実態とその意図
ア I1の一般的な貸付け形態について,これを法律的に借換えや借増しと断ずるに無理があることは前記のとおりである。
 しかしながら,証拠(甲38ないし42,原告C1代表者)及び弁論の全趣旨によれば,旧貸付けの返済は手形の決済によるから,不渡りをおそれる債務者にとって弁済の事実上の強制力は高く,通常は確実に旧貸付けが返済されること(本件においても,ダブル不渡りがいずれも生じていないことは前記のとおり。),その場合,新貸付金として債務者に交付されるのは利息等を
控除した金員であるから,実態としては,利息を支払って借換えをし(新旧貸付けが同額のとき),あるいは利息を支払うとともに増額分のみを受け取って借増しをした(新貸付け額が多いとき)のとほとんど変わらな
いことが認められる。
 また,証拠(甲10,11,12の1及び2,13,14の1ないし3,24,25,40ないし42,47の1ないし7,乙13,80,証人K,原告C1代表者)並びに弁論の全趣旨によれば,I1は債務者や保証人との間で極度額や期間を定めて長期的,反復的な継続取引を予定し,現に旧貸付けの返済期日が近づくと債務者に「継続融資のご案内」とか「手形書換え」の案内書等を郵送して,I1社員が貸付けの継続(形は新貸付け)を執拗に勧誘していたこと,I1内部では新貸付けの形で貸付けを継続することを「切返し」と称し,新規融資先の開拓と同様,切返しの達成が営業社員の重要な任務であったこと,社員の中には,貸付けを反覆継続させるために手形の支払期日を債務者の集金日前に設定する方策をとる者もいたこと,「ジャンプ」とか「書換え」の言葉を用いて「切返し」を勧誘することもあったことが認められ,これらによると,I1の営業方針としても,手形貸付けでの短期間の単発的な融資というよりは,債務者との実質的な借換え,借増しの繰り返しによる同一資金の長期的な利息の取得を意図していたことが明らかである。
 そこで,実態は,一定の金額の範囲内で借換えや借増しをしているにすぎないのに,あえて新貸付金を新たに交付するという債権者にとって危険な形態をとったI1の意図を推し量るに,利息制限法の制限内での利息の約定であれば,かかる形態をとるメリットを考えがたいから,結局,法的に個別貸付けと評価されて利息制限法の制限を超える利息の元本充当を免れ,実質金利として利息制限法の制限を上回る利息を取得しようと意図したものと解される。
一見危険に見えるこの形態も,手形決済による弁済という強い事実上の強制力を利用しているので,実際上の危険性はさほど大きくなく,I1としては,その危険性を考慮してもなお利息制限法を超える実質金利を得る利益が大きいと判断したものと窺われる。
イ ところで,I1は,利息制限法の制限を超える利息であることを熟知の上,上記のような貸付け形態をとって,過払い金は他の債務に充当されることなく別途不当利得金として返還すればよいとの法的主張を用意し,現に本件訴訟においてもその旨の主張をしている。
しかしながら,弁論の全趣旨によれば,この法的主張とは裏腹に,紛争にならない実際の多くの取引においては,利息制限法の制限を超える利息をそのまま領得しており,債務者の請求を待たずに自発的,任意に過払い金を返還する意思はないことが明らかである。
I1に過払い金を自発的に返還する意思がなく,過払い金に相当する金員が実際上I1の手元に留保されている以上,法律的にはともかく,実質的に,債務者にとって,その過払相当分は借受金として利用可能な金額といえないのであって,充当を否定してこの分についてまで年15パーセントの利息を取得させることは信義に反する面がある。
ウ I1が,Lを設立して保証料等名目で債務者から実質的な利息を受領していたことは前記のとおりであり,ここにもI1の利息制限法潜脱の意図が窺われる。
(6) 債務者の認識
前記認定の各事実や弁論の全趣旨によれば,債務者としては,I1からの借入れも,他の貸金業者の場合と同様に,借換え,借増しの繰り返しによる長期的な借入れとの認識しかなく,過払い金精算の結果が大きく債務者不利になることを全く認識していなかったものと認められ,もとより,I1側から債務者にこの重大な差異を説明した形跡は認められない。
かかる認識にすぎないままで,利息制限法の制限を超える利息を支払い続けた債務者が,訴訟の場においても,他の貸金業者の場合と同様の救済を受けられず,これをはるかに超える利息の弁済を強いられるのは,酷なきらいを否めない。
(7) 以上によれば,I1は,その貸付けの実態が,他の貸金業者の場合と同様に,一定の金額の範囲内で借換えや借増しをしているにすぎず,債務者にもそのような認識しか与えずに,手形貸付けの方法を巧みに利用し,貸付けを法的に複数に分け,短期間の貸付け,弁済を繰り返すことによって,他の貸金業者の場合のような充当計算を免れ,法の予定した正規の手続によらずして,訴訟の場においても実質利息として利息制限法の制限をはるかに超える利息を取得しようとしたものというべきであり,利息制限法や貸金業法を潜脱する意図が明らかに認められる。これに,I1の訴訟での法的主張と訴訟外での現実の処理とに大きな乖離があることや,本件においてダブル不渡りは発生していないことなど,本件に現れた諸般の事情を併せ考えると,精算Aにより全体的な実質利息として利息制限法の制限を超える利息をそのままI1に取得させ,債務者にその弁済を法的に強いることは著しく当を失するといわざるを得ず,利息制限法や貸金業法の法意等に照らし,信義則上,他の貸金業者の場合と同様に,全体として1本の貸付けとみた計算をし,当初の現実受領額と過払充当後の金額,すなわち本件主債務者らが現実に保有した金額(実際に利用可能な金額)と「実際に利用した期間」を基準とした実質金利が利息制限法の制限を超えない範囲に,I1の利息取得を限定するのが相当である。
  I1は,高金利の貸金業者の社会的有用性等を縷々主張するが,刑事法において立法政策上許容されているとしても,民事の訴訟の場においては,利息制限法の趣旨を厳格に貫くのが相当である上,上記の限定は,他の高金利の貸金業者の場合と同様に扱うにすぎない。
 上記観点から,切返し以外の新たな貸付けについても全体の中で借増しがあったとみ,利息制限法の適用利率については,総残元本額が100万円以上になった時点から一律年15パーセントとする(本件においては,E1を除き,いずれも当初から年15パーセントとなる。)。
 なお,天引について付言するに,最初の貸付金の返済がされた時点での過払額は,利息天引であっても利息後払いであっても同額であり(現実の受領額とこれに対する制限利率による利息を超えた部分が過払いとなる。),それを他の債務に充当した時点で,その債務の天引相当額を再計算していくと,結局,それは現実受領額を元本とした利息後払いの場合と同様の計算になる。
5 結論
 以上により,精算Bの計算による範囲内にI1の取得する利息を限定した上で,I1と本件主債務者らとの債権債務関係を整理すると,別紙計算書3−1ないし4のとおりとなり,本件主債務者らにはいずれも過払い金が生じ,反訴被告D3,同E2,同F2及び同F3については,いずれも主債務が消滅している。
 よって,上記過払い金(原告C1は請求金額の範囲内で)とこれらに対する各過払後の民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払いを求める原告C1,同D1の本訴請求はいずれも理由があるからこれを認容し,同D1のその余の請求及びI1の反訴請求はいずれも理由がないからこれを棄却し,主文のとおり判決する。

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債務超過額,営業損失及び経常損失の実態
法廷意見で指摘する平成6年3月期末現在のDグループの債務超過額,営業損失及び経常損失の実態,並びに前項で見たとおりの各融資先企業の平成6年3月期現在の売上高,営業損失,借入総額,債務超過等の状況からすれば,本件で実行された各融資を回収することは,その融資時点においても実際上不可能に近いことが見てとれる。 ところで,被告人らは,本件各融資は,損失の極小化を図ること等を目的として行ったもので,結果的に回収不能に陥ったとしても経営判断の原則の適用により,被告人らはその責任を負わない旨主張している。 実質破綻状態にある企業に対しても,その清算や再建あるいは再編のために必要があるときは,実質的には既存の債権回収に必要な経費の趣旨を込めた無担保融資がなされ得ること,及びその融資の可否の判断には経営判断の原則の適用があり得ることは,上記2,3にて検討したとおりである。 そこで,被告人らの主張に鑑み,上記3で検討したところを踏まえた上で,本件融資が経営判断の原則が適用される状況の下でなされたと言えるか否かについて,本件における融資中,最も早期のものであり,かつ,約2か月間半の間に実行された融資について被告人Aの責任が問われている株式会社Fに対する融資につき検討する。